宇都宮家庭裁判所 昭和36年(家)2351号 審判 1973年8月14日
申立人 笹島エミ(仮名)
相手方 佐伯カナ(仮名) 外六名
主文
一、栃木県那須郡○○町大字○○△△番地被相続人笹島啓造の遺産を次のとおり分割する。
(一) 相手方笹島慎悟は別紙第三目録記載の不動産を取得する。
(二) 相手方笹島敏史はその余の不動産全部を取得する。
(三) 相手方笹島敏史は申立人笹島エミ、相手方佐伯カナ、同花崎キヨノに対し各金四、四一二、八四四円を、相手方笹島保子同笹島治子に対し各金一、四七〇、九四八円を、相手方笹島清司に対し金二、五六五、三〇五円をそれぞれ支払え。
(四) 相手方笹島慎悟は相手方笹島清司に対し金一、八六四、九三九円を支払え。
二、本件審判の費用はこれを六分し、その一を相手方笹島敏史、同笹島保子、同笹島治子に、その余の各一はその余の各当事者に負担させる。
理由
一、栃木県那須郡○○町大字○○△△番地笹島啓造は昭和三五年五月二日死亡し相続が開始した。その相続人は長女佐伯カナ、三男笹島慎悟、三女花崎キヨノ、四女笹島エミ、五男笹島清司のほか昭和二〇年一二月七日死亡した二男竜夫の長女治子、二女保子、長男敏史であり、その遺産は別紙第一目録記載のとおりである。
二、特別利益
参考人花崎和男、同村上鉄造の各審問の結果によれば啓造は長男は幼時に死亡し二男竜夫が啓造を扶けて一家の柱になつていたが昭和二〇年に笹島慎悟が復員した後、病気で間もなく死亡した。啓造は孫敏史に家をつがせる予定で同人の成人に達するまで笹島慎悟をその後見役に当てる目的で同人が落着くようにと別紙第二目録記載の山林を贈与した。而して同人に嫁を貰つてやつた。はじめのうちは円満であつたが段々不仲となり相手方慎悟はさきに譲受けた山林を処分して上京することになつてしまつた。父啓造はこれを知り自分の山を売つて金をつくり買戻しこれを敏史に贈与し中間を省略し、直接敏史名義としたことが認められる。従つて右目録記載の一八筆の土地は相手方慎悟、同敏史両名が何れも被相続人から生計の資として生前贈与を受けたもので本件分割に当り特別受益として考慮しなければならない。
三、相続分
被相続人と相続人らの身分関係が前記のとおりであるから相手方笹島敏史、同治子、同保子の相続分は各一八分の一、その余の相続人の相続分はそれぞれ六分の一である。鑑定人鈴木泰蔵の鑑定の結果によれば本件遺産の総額は金二〇、五九二、九六一円、相手方らの特別受益の額は金九、九三一、二〇八円であるからこれを加えた金四、〇四五、三七六円となり、これを法定相続分を乗ずると敏史ら三名については金二、二四六、四〇九円、その余の相続人金六、七三九、二二七円となり、これより特別受益を差引いた残額の割合により具体的相続分が算出されるが右に見られるとおり相続財産の前渡として受けた特別受益の額が超過しているから相手方笹島慎悟、同笹島敏史は相続分を有しないことに帰し、右遺産はその余の相続人において法定相続分の割合で分割することになる。遺産分割は、対象である物又は権利の種類、性質、相続人の職業その他一切の事情を考慮して具体的妥当な結果を目的としてなさるべきであるから各相続人について具体的事情をみるに本件記録によれば申立人笹島エミは、竜夫が死亡し兄嫁は治子ら三名を残して他家に嫁したので家事育児を担当するほか農業に従事し三児の母代りとなり婚期を逸したもの、相手方笹島敏史は申立人に育てられ農業専業であるもの、相手方佐伯カナは農家に嫁いだもの、相手方清司は大学で法律を学び法曹を志しているもの、相手方花崎キヨノは銀行員に嫁ぎ東京に在住するものである。相手方笹島慎悟は前記のとおり妻を迎えて、農業に従事していたが家族間の紛争、妻の農業に不慣れなどが原因して東京に出たが父啓造が死亡したので一家を切盛するために帰郷しても事態は改善されず再度上京して会社員となつた。しかし定年も近ずき東京における再就職をあきらめて帰郷し農業のかたわら勤め口を求めているものである。○○町大字○○は○○川の上流の谷間に位し大部分は山林であつて農地が少なく既存の農家でも耕地不足である所で新規に農業を始めるのは困難であり、一度農業をやめて出て行つた者が農地を確保しようとすれば既存農家の生活を破壊しかねないから飯米農家となり他に収入の道を探すより仕方がない。而も相続分を有しない相手方笹島慎悟、同笹島敏史が遺産を現物で取得することは他の相続人の権利を著しく害するおそれがあるから、その同意又は明かな反対のない場合に限りその利益を害しないことを要する。以上の事情を考慮するときは別紙第三目録記載の家屋及土地を相手方笹島慎悟が取得し、その余の遺産を相手方笹島敏史が取得するのが相当である。本件記録により右の限度では他の相続人において異議がないと認められる。右両名が取得する不動産の価額は鑑定の結果によれば金一、八四六、九三九円、金一八、七四六、〇二三円である。その余の相続人の相続分は結局相手方保子同治子は各一四分の一、その他の四名の相続人は各一四分の一であるからその価額はそれぞれ金一、四七〇、九四八円、金四、四一二、八四四円である。右両名それぞれ取得した遺産の価額を限度として相続分を有する各相続人に補償する義務があり相手方笹島敏史は申立人笹島エミ、同佐伯カナ、同花崎キヨノに対し各金四、四一二、八四四円を、相手方笹島治子、同笹島保子に対し各金一、四七〇、九四八円を相手方笹島清司に対し金二、五六五、三〇五円を、相手方笹島慎悟は相手方笹島清司に対し金一、八四六、九三九円を支払う義務がある。
よつて本件審判費用は家事審判法第七条、非訟事件手続法第二六条を適用して主文のとおり審判する。
(家事審判官 大久保浩)